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SS 椿姫 La traviata3

久しぶり過ぎて覚えている方がいるかわかりませんが。
しかもあと一回続きます。


事件が起こったのは『椿の夕べ』から一ヶ月ほど経った後の事だった。
いつものように刺激的で退廃的な夜会の途中、女主人がいないことに気付いた男は、気まぐれに庭へ探しに出た。
ふと夜風に乗って嗅ぎ慣れた匂いを感じた。
眉をひそめその元に音もなく駆けていくと、庭の外れにある東屋に女主人が座っていた。
その前に初老の男が立っている。
ヴィクトリアは片手で頬を抑え、老人を睨み付けていた。
その辺りから嗅ぎ慣れたヴィクトリアの血の匂いが漂ってくる。
彼女の頬と初老の男の手からの二カ所。
男は一瞬で腹の焼けるような怒りを覚えた。
彼女の血の匂いを嗅いで、一瞬食欲がそそられたのを誤魔化したかったのもある。
好意を持っている知り合いを傷つけられて湧いた怒りの強さに男自身も驚いていた。
不意に現れた男の姿に、老人は悲鳴を上げ手にしていた刃物を床に落とした。
カランと小さな音がなる。
老人の顔には見覚えがあった。何度かパーティで見かけた男だ。
上質な服を着ているがどこか着崩れて薄汚れている。
髪を乱し不意に現れた男に驚きだらしなく顔をゆがめている。
衣服と尊大な雰囲気からこの地方の有力者に違いないが、男にとってはただの非力な老人だ。
こんな汚らしい男に彼女が傷つけられたのかと思うと、このままこの男の体をずたずたに引き裂きたくなる。
我ながらヴィクトリアのためにここまで感情が揺れるとは思っていなかった。
不味そうだった彼女の血の匂いに食欲がそそられている己に嫌悪を感じる感情を誤魔化すように老人に怒りを向けた。

「ヴィクトリア。この男をどうしたいかお前が選べ。希望の通りに俺がしてやろう」

不穏な空気を纏った男が壮絶な笑みを向けると、老人は小さな悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
彼女が望めばこの場で殺す事もやぶさかではない。
武器はこの両手、いや片手で十分だ。腕一振りで老人を殺せる。
遺体も抱えて飛べ深い森の奥に捨てて隠蔽することも簡単だ。
ヴィクトリアは頬の傷を片手で押さえながら呆然としていたが、一瞬後、自分を取り戻し意志のある目でこちらを見た。
すっくと立ち上がりゆっくりと歩いて男たちの前に立つ。

「そうねえ。この傷のお代は頂きたいわね」

そう言いながら頬を押さえていた手を下ろすと、まだ血を滴らせている生々しい傷が現れた。
白い頬に二本の醜い刃物傷が走り、皮膚をズタズタに裂いている。
なまじ美しい容姿なだけに痛ましい。
すぐさま昏倒するほどの出血量ではないが、ひるまずまっすぐ立つ女の強さに内心舌を巻いた。

「取り敢えず、先ほどご相談した鉱山の採掘権利の件を再度ご検討下さり、今度こそ色よいお返事を頂きたいですわ」

女は笑さえ浮かべながら、怯える老人に利権の交渉を持ちかけた。
自慢の美貌を傷つけられたのに冷静さを失わない。
その迫力に老人も気圧されていた。

「あ、ああ。分かった。採掘権は許可する。だから助けてくれ。悪かった。ここまでする気は無かったんだ。ただ少し力の加減を間違えただけなんだ。殺さないでくれ」

老人は女の前で土下座して怯えながら許しを請うた。
男は見苦しい行動に眉根をひそめたが、怪我を負わされたのは自分ではない。
傍観者に徹して女の行動を見守った。
女はこの怪我を誰にも吹聴しない代わりにと怯える老人から幾つかの約束を取り付け、十分に脅しをつけてから解放した。
老人は転がるように逃げ去って行った。
その背が見えなくなると、女はベンチに深く腰掛けて背中を預けた。
流石に疲れたのだろう。清潔なハンカチで頬を押さえ止血する。
東屋にしばしの沈黙が流れた。
たいした女だ。
深傷を負ったのにそれをネタに加害者に脅しをかけて自分の有利な条件を引き出した。
並の人間には無理だろう。
男は女主人のしたたかさに感銘を受けた。
しかし強がっていても確実に体はダメージを受けている。
老人との遣り取りはほんの数分とはいえ、早く手当をしなくてはならないし、手当をしても顔の醜い傷は残るだろう。
華やかで美しい女の顔に痛々しい跡が刻まれるのだ。
男はそれがとても残念な事に思えた。

「一つ提案があるのだが…」

立ち上がり手当をするために屋敷に戻ろうとするヴィクトリアに手を貸しながら男が話しかけた。

「もし貴女が望むなら我が眷属に迎え入れよう。神に背き日の光の中に二度と戻ることは出来ないが、永遠の若さを得てその傷を癒やし元の美しい顔を取り戻す事が出来る。表の事業は誰か信用できる者に任せ、女主人として永遠に夜の館で君臨することも可能になるだろう」

男は女主人のことがすっかり気に入っていた。
ただ善良な人間をこちらの世界に引き入れるのは気が引けるが、この女性なら賢く立ち回ることが出来るだろう。

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