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SS 椿姫 La traviata2

続きです。後1回で終わります。



「まあグランドツアーでヨーロッパ各国をまわられているのですか?」
「ええ、世界を旅する年でも無いのでしょうけどね。迷ったのですが若い時に行けなかったので、見識を広める事に年は関係ないと思うようにしています」
「もちろん。素晴らしい事ですわ」

グランドツアーとは、ここ十数年流行っている貴族の子弟が見聞を広めるため、数年かけてヨーロッパ各地をまわる外遊の事だ。
男の外見からすれば、見識を広めるなど暢気なことを言う年ではないと誰の目にも明らかだが、放蕩の限りを尽くす子弟は腐るほど居るし、男の年で働きもせず金のかかるモラトリアムを享受していると言うことは、莫大な資産を持つと言うことだった。
ヴィクトリアの主催するパーティで出会った年配の婦人に話しかけられ、当たり障りのない会話を続けていた。
中身のない会話は楽だが、己がアホになった気がする。
婦人は金の匂いを敏感に感じ取り先ほどより三割り増し媚びを含んだ口調で流し目をくれてきた。

「この屋敷に滞在されていると言う事は、悪い遊びの方にも興味がおありなのですか?」
「親切なこの屋敷のご婦人に誘われただけなので、この辺りのことはまったく分からないのですが、この屋敷に滞在するとどんな面白いことがあるのですか?」

悪い遊びとは、パーティでヴィクトリアに頼むと遊べる男や女を斡旋してくれるというものだった。
時には特殊な趣向で楽しむことも出来るらしく、それを目当てにくる有力者も多いという話だ。
しかしそれをストレートに話題にするには外聞が悪すぎる。
声を潜めて親しい知人とする話を正面から切り替えされた年配の婦人は曖昧な笑みを浮かべて、分からなければ良いのよと呟き、男の元を去っていった。
ヴィクトリアの屋敷には驕慢と退廃が漂い、男にとって過ごしやすい場所だった。
昼間は眠り、夜は女主人の主催するパーティでくだらない会話をしながら時折気に入った娘の血を貰う。
女主人の意向を尊重し、吸血鬼であることは悟られないよう気をつけているので、娘達は男と一夜を共に過ごしたと勘違いしているようだった。
女主人は芸術家のパトロンにもなっており、有象無象な自称芸術家が何人も滞在し、美しく慈悲深い女主人を讃える詩や曲を量産していた。
ヴィクトリアもまんざらでは無いようで、凡作を捧げられては高い自尊心を満足させていた。
芸術家は容姿が整った者も多く、どこまで面倒を見ているのか邪推したくなる場面に何度も出くわした。
男が女主人の新しいお気に入りだと知れると、時折自分の場所が危なくなるのではないかと心配する芸術家の嫌がらせにもあったが、男が静かに凄むと優劣に敏感な相手はすぐさま尻尾を巻いて逃げ出した。
こちらにまで汚れが染みつくほど澱み過ぎているほどではなく、息苦しいほど清み過ぎているほどでもない。
適度に汚れて適度に美しい場所だった。

『椿を愛でる夕べ』という椿が好きな女主人を讃える退屈な夜会を抜けだし、男は一人で庭を歩いていた。
女主人は己が讃えられる機会を貪欲に求めたため、援助されている詩人や音楽家、画家達は先を争って女主人の素晴らしさを作品にする。その発表会が『椿を愛でる夕べ』だ。
腹は十分に満たされているし、酒に酔った体に夜風が気持ちいい。
夜の世界は男の領分だった。
ふと向こうの茂みで物音がした。
暗闇に目を凝らすと茂みの向こうで男女がひっそりと抱き合っているのが見えた。
正式な恋人なり夫婦であれば隠れる必要はない。夜会の不道徳な楽しみを興じているのだろう。
皮肉な笑みを浮かべて立ち去ろうとした男は、後ろに女主人が立っていることに気付く。

「あの二人お似合いだと思わない?」
「茂みで抱き合っている二人の事か?」

声は一応潜められている。

「ええそうよ。身分違いで親の反対にあって別れた恋人同士だったけれど、彼女の両親が亡くなったのと、彼が出世して相応しくなったので仲を取り持って欲しいと言われたの」
「祝福されるなら別に他人の家の庭先で抱き合わなくても良いだろう」
「彼女にはまだ夫がいるのよ」
「……ああ」
「まあ、今の夫は家柄だけのろくでもない男だしね。さっさと別れて彼と一緒になった方が良いと思うの。金と愛は大切よ」
「二人の事情にやけに詳しいな」
「夫を説得するように仲介を頼まれたからね。彼女の事は嫌いじゃないし掴めそうな幸せは掴んでおいた方が良いわ。短い人生ですもの。楽しまないと」

生きることに貪欲な女の言葉にうっかり感心してしまった。
欲深さもここまで真っ直ぐだといっそ清々しい。

「ヴィクトリアは誰よりも長生きしそうだ」
「ええ、この世の楽しみを味わい尽くすつもりよ」

朗らかに笑う女主人は確かに華のように美しかった。



いつも似たパターンですみません。

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