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オリジナルJUNE・

Jガーデン主催のオリジナルJUNEオンリーイベントにて帰っちゃうのポスターで書いたSSです。

もう帰っちゃうの?

夏休み田舎に遊びに来た年上の従兄弟が帰る時、俺が毎回尋ねた言葉だ。
両親を事故で亡くしたのは俺が小学三年生の時だ。
一人っ子だった俺はかなり心細い気持ちで、半ば呆然としながら両親の葬式を見守った。

「貴史(たかし)君、お葬式の間、僕と一緒にいようか」

その時優しく手を差し伸べてくれたのが、四つ上の従兄弟の彰彦(あきひこ)だ。
顔を強ばらせたまま立ちつくしていた俺の肩を抱いて、式が終わるまで静かな声で話しかけてくれた。
葬式が終わると俺は父親の実家がある田舎に引き取られた。
祖父さんは既にいなくて祖母さんだけで暮らしていた。
町と色々違う生活だったが気にしない性格だったので直ぐに慣れた。
老人と子供だけでは気になるからと、夏休みの半月ほどの間、従兄弟が様子を見に来てくれるようになった。
俺は彰兄が来てくれる夏休みが待ち遠しかった。
同じ年頃の友達も出来たけれど、彰兄は特別だった。
真面目で優しくて滅多に大きな声を出さない。
高校に入ってからは眼鏡をかけるようになり、頭の良さそうな理知的で端正な顔をしていた。
身長は平均より少し低く細かったので、俺が小学校六年生の時にほぼ同じ体格になれて嬉しかった。
彰兄が帰る時、俺も駅までついて行き見送った。
一日十本の列車に乗って街に帰る従兄弟を焦燥感に駆られながら見つめていた。
八月の終わりのまだ暑い日の午後。
屋根のないプラットホームで椅子に座って電車を待つ。
プラスチックの長椅子に腰掛けて「暑いね」と俺に話しかけ、照りつける太陽にうんざりしたように俯く従兄弟の細い顎から汗が滴る。
ぽたり、ぽたりと、白いコンクリートの上に落ち、直ぐに乾いていく様子を言葉もなく見つめていた。
俯く従兄弟の体に何故か腕をまわしたくて。
でももう従兄弟のお兄ちゃんに抱きつくほど子供ではなくなっていて。
どうすれば彼とずっと一緒に居られるんだろう。
俺達を灼く太陽の熱のようにじりじりと心が焦げる。
電車が来なければ良いのにと何度も考えた。

「忘れ物は無い?」

ある夏に俺は彰兄に尋ねた。
去年の夏に彰兄が来た時、携帯には見慣れないストラップがついていた。
彰兄が絶対に選ばないような可愛いキャラクターのストラップだ。
俺は嫌な予感がして誰かのプレゼントかと尋ねると、彰兄が照れた様子で彼女から貰ったと教えてくれた。
俺は急に目の前が真っ暗になった。
彰兄が他人の物になるのが辛い。
どうして自分はこんなに子供なんだろう。
同じ男なんだろう。
いつまで一緒に居られるのか急に不安になった。
彰兄への気持ちがなんなのか、自覚したのはこの時だった。
そのストラップは今年の夏もついてきた。
一年経ったストラップはくたびれて少し汚れていたけれど、彰兄は大切にしているようだった。
だから思いあまってそのストラップを隠した。
でもすぐに返すつもりだった。
忘れ物を祖母ちゃんの家に取りに戻ったら、二時間は別れるのが遅くなる。
大切にしている物だったら無くした事に気付いて探しに戻ると思った。
だから少しの間、隠しただけだ。
彰兄は首をかしげて一通り荷物を確認し、「忘れ物は無いよ」と俺に笑った。
まさか俺がストラップを盗ったとは言えず、列車に乗り込んだ彰兄を黙って見送った。
こんなずるいことをした自分が嫌になる。
自己嫌悪でいっぱいになりながら俺はいつまでも列車を見送った。
人の物を隠すと言う罰が当たったのか、次の年から彰兄は来なかった。
受験で忙しいと言われると仕方がない。
彰兄のいない夏、駅のフォームに立って来るはずのない人を待つ。
電車が来て関係の無い人達がぽつぽつと降りていく。
このまま電車を見送るしか出来ない自分の無力さが悔しかった。
ここは嫌いじゃないけれど、とても寂しい。
彰兄がいないことが寂しい。
子供であるのが辛いと思ったのは両親が亡くなって以来だった。
この電車に乗ってどこまでも行ける、そんな大人になりたいと強く願った。





「どうしたの?」

不意に尋ねる声がした。

「いや昔のことを思い出していた。夏休み毎に大好きな従兄弟のお兄ちゃんと遊んでいたあれこれとか」

浸っていた過去の記憶から不意に意識が浮上し、横に座る恋人を見た。

「へえ、そんなに好きだったんだ。そのお兄ちゃん」
「ああ、大好きだった。格好良くて可愛くて優しい人だったな」
「……恥ずかしげもなく、堂々と言うなよ。お前」

苦笑する恋人の肩を俺はそっと抱き寄せた。
あの時本当はこうしたかったんだ。
それが出来る今の幸せをかみしめる。
恋人は俺の腕にちょうど収まるくらいの肩幅だった。
他に人影が見えないので相手も嫌がらずされるがままになっている。
真夏の太陽が容赦なく照りつけ暑かったけれど、今はこうしてくっついていたかった。
あの時一日十本あった電車は、今では四本になり駅も無人駅になった。
夏の盛り、亡くなった祖母の墓に参るため、子供の頃身を寄せていた田舎の家に恋人と二人で遊びに行った。
お盆休みの三日を誰もいなくなった祖母の家で過ごし、墓参りを済ませ夏を満喫してから家に帰る所だ。
あの時乗れなかった電車に二人で乗れる。
そして一緒に住む家に帰れるんだ。

「電車が来たよ。彰兄。……忘れ物してないよね」
「お前は昔からやたら忘れ物を気にするな。お陰で僕はすっかり電車に乗る前に荷物を確かめる習慣がついたよ」

大好きだった彰兄は、今は大切な恋人になった。
大人になった俺は堂々と隣に立てる。
手を引きながら乗り込んだ俺は、閉まった扉の向こう誰もいないフォームを見ながら、電車が動き出すのを感じた。


ご存じない方に説明しますと、「帰っちゃうのポスター」とは、有志のサークルがSSやイラストをかいて、もうちょっと会場に居てね。みたいなニュアンスで出入り口に張り出す企画です。それを読んで気になったサークルさんがあればそこに行って貰う言わばCMみたいな面もあります。
これは鉄道BLの合同誌が出た時に書いたので電車が出てくるんですね。



Yさん、コメントありがとうございます。この二人がくっついた経緯は考えていませんが、多分年下攻めが大学進学などで上京し、頑張って受けを口説いてくっついたのではないかと思っています。

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