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オリジナルJUNE・僕は魔法使い5

ひとまず最後です。続きは考えられたら書きます。



不意に玄関の扉チャイムが鳴り飛び上がった。
聡人が来たのだ。
すっかり忘れ去っていたが、これから僕の誕生日を祝いに来てくれるはずだった。
僕はざーーっと青ざめる。
どうしよう。何も準備していない。
買ってきたデリも酒の用意もしていない。

「出ないんですかー?」

女の子が間延びした声で尋ねる。
これをどうにかしないと一番の頭痛の種だ。
ここに置いておくわけにもいかないけど、この格好で追い出すのも寝覚めが悪い。
それにタイミングが最悪だ。
僕が恋人の部屋に裸の女の子を見かけたら、ショックのあまりなにも言えずに踵を返して家に引きこもる。
聡人ならまず問いただすかもしれないけれど、どう説明してもにこやかに笑えるはずがない。

「服! 服着て。持ってないなら僕の服をかすから」
「服はオプションで選べますよー」
「なら最初から着て出てきてくれよっ!」

持ってないのかと思い込んでいた。目のやり場に本当に困っていたので切れそうになる。

「美優がー、服を着ないのはオタク達のー」
「分かった分かった。夢なんだろう。でも僕の夢じゃないから。何でも良いから手持ちの服を着て、早く! それと僕が呼ぶまでここで大人しく待っていてくれよ」

女の子を急かしながら素早く室内を見回して散らかり具合をチェックする。
綺麗に片付いているとは言わないけれど、これぐらいなら大丈夫だろう。と考えかけ、ベッドの上に落ちているアニメ雑誌を引っ掴み、仕事用の鞄の中に放り込んだ。
ここなら絶対に聡人は見ない。
もう一度チャイムが鳴る。

「はーい、今出る」

玄関に向かって返事しながら寝室の扉を閉めた。
慌てて玄関に駆けていきながら、この部屋は会社の借り上げマンションなので、聡人に鍵を渡しておかなくて良かったとしみじみする。
鍵を渡していたら一気に入って来られ、大きな誤解を受けただろう。
玄関を開けると仕事帰りの格好をした谷口が立っていた。
手にケーキらしい包みと酒らしい袋を下げている。

「お誕生日おめでとう」

にこやかに微笑む顔は精悍に整っていて、今でもうっかりすると見ほれてしまう。

「ごめん。来てくれてありがとう。入って」

僕は労いながら聡人を招き入れた。
荷物を引き取りテーブルの上に置くと、そのまま腕を引かれて抱き寄せられた。
あっと思う間にキスをされる。
軽く唇を触れあわせる程度のものだったけれど僕はうっとりと目を閉じた。
こうして触れ合っているだけで馬鹿みたいに胸が高鳴る。
一日働いてきた男の体臭が鼻孔をくすぐり、体の奥がぞくりと震えた。

「夕食はまだか? 俺もいくつかつまみになりそうなものは買ってきたけど。食べきれなければ明日の朝、朝食にすれば良いよな」

聡人はテーブルの上にあった僕の買ってきた食料を見て言った。
ここで甘い夢から覚め辛い現実を思い出す。

「……それが。叔母さんと喧嘩した従姉妹が急に押しかけてきて、暫く泊めて欲しいって言ってるんだ。僕もさっき帰ってきたばかりで、事情がよく分かっていなくて……」

今日泊まると言われて、疫病神の存在を思い出す。
ちゃんと着替えてくれているんだろうか。頼むよ。

「いとこ? 男? 女?」
「女の子だよ。美優って名前で高校生、ぐらいかな?」
「何だよ。その『ぐらい』って。従姉妹の年覚えてないのか?」
「ああ、うん。滅多に会わないから」
「滅多に会わないのに頼って来たのか?」

鋭い突っ込みにたじたじとなる。今日は厄日か。

「何か深刻そうだったから詳しくは訊けてないんだ」
「そうか、それなら今日はもう俺は帰った方が良いのかな」

聡人の声は低く微妙に不機嫌そうだ。
そりゃそうだろう。仕事で残業して疲れた体を押して恋人の部屋に行ったら、先客がいると言われているのだ。
せっかくの誕生日が。楽しみにしていた誕生日が!
僕は泣きそうになった。

「僕も楽しみにしていたんだけど、ごめん。本当にごめん」
「いいよ。あんたのせいじゃ無いんだろ? 俺は今日おめでとうを言えれば良いから」

僕の表情を見て態度が和らいだ。

「ごめんな。本当に。次は絶対泊まっていって」

一転して優しい声に慰められる。僕は聡人を抱きしめ何度も詫びた。
僕の幸せのためにも早くあの子に引き取ってもらわないと。

「帰る前にその従姉妹に挨拶しておいた方が良いかな? うっかりキスもしてしまったし。誰かいるか確認してすれば良かったな。俺たちの事は知らないだろう?」

優しい言葉にうっとりしながらも、僕の頭の中はフル回転で考えていた。
このままあわさない方が良いのか、でも予想以上に長引いた場合、最初隠したのは何故かと疑問を持たれないか。

「…あ、じゃあ呼んでくる」

結局、隠しきれなくなるのは目に見えているので引き合わせることにした。
挨拶だけして帰せばあまりぼろも出ないだろう。
かなりアレな外見なのは今時の高校生として納得して貰えるの、か?
僕は寝室の方に向かう。

「美優、ちょっと出てきて」

声をかけながら部屋の中を覗き込みそのまま固まった。

「やっと名前を呼んでくれましたねー」

美優はきゃっきゃと喜びながらベッドから降りて近寄ってきた。

「こんばんは。俺は青野さんの友達で、谷口聡人と言いま……えっ何だ?」

聡人が固まった僕の後ろから部屋を覗き込み同じく固まった。
美優は言われた通り服は着ていた。
いやこれを服と言っていいのだろうか。
彼女は小学生が着るようなスクール水着を着て、胸の所には拙いひらがなで「みゆ」と書かれた白いゼッケンが縫いつけられていた。
確かに何でも良いから服を着てと言ったが。言ったが!

「……何でスクール水着?」

呆然とした聡人の言葉。

「貴方が聡人さんですねっ。よろしくお願いしますー。暫くここでお世話になる予定の美優でーす」

美優は脳天気に片手を挙げてこちらに向かって手を振っている。
僕はこのまま気絶しそうになるのに必死で耐えた。
気絶しても事態は悪くなるばかりだ。
でも九番目の魔法を使う時の気持ちが少しだけ理解出来た。


折角の誕生日なのに。
誕生日なのにーっ。

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